・相続人(遺産分割当事者)の確定  ・相続財産(遺産)の範囲  ・遺産分割の対象となる財産の範囲
・特別受益  ・寄与分  ・遺留分  ・遺留分侵害額請求権  ・相続放棄

相続人(遺産分割当事者)の確定

相続人となる資格が民法上認められている者であっても、必ずしも相続人になれるわけではありません。そこで、遺産分割協議の前提として誰が相続人となるかは重要な問題となります。以下では、相続人の範囲や種類について説明します。

相続人の範囲

相続人とは、被相続人の相続財産を包括的に承継することができる一般的資格を持つ人のことをいいます。
相続人が相続人なりうるためには、原則として、被相続人が死亡した時点で相続人が生存していることが必要です。しかし、以下の場合には例外が認められています。

胎児

胎児は、相続については、すでに生まれたものとみなし、相続人となりうるとされています。出生前の胎児が相続人となりえないとすると、被相続人の死亡時期の前後という偶然の事情によって、相続人となるかならないかの判断が異なると、胎児にとって不利益が大きいと考えられるからです。
なお、胎児が相続についてはすでに生まれたものとみなすとされていますが、現在の実務では、生きて生まれてくることを停止条件(条件とされている事実が発生するまでは法的効果は発生しない場合をいいます。)として、相続人になると考えられています。そのため、胎児が死亡して生まれた場合には、胎児は、相続人とならないということになります。

代襲相続人・再代襲相続人

相続人となる可能性のある者が、被相続人の死亡よりも以前に死亡していたり、一定の事由(相続欠格や相続廃除があった場合であり、相続放棄が含まれないことには注意が必要です。)により相続権を失っていた場合、その相続人の直系卑属(子・孫など自分より後の世代で、直通する系統の親族のことをいいます。)が、その相続人に代わって、相続分を相続することを代襲相続といい、その相続する人のことを代襲相続人といいます。
代襲相続人が相続開始前に代襲相続権を失っていた場合、代襲相続人の子が相続人になることを再代襲といい、その相続人を再代襲相続人といいます。再代襲は直系卑属の場合にのみ発生します。

相続人の種類

相続人の種類は以下のように分類されています。

血族相続人

血族相続人とは、血のつながっている直系の家族のうち、法定相続人になり得る者のことをいいます。血族相続人には、相続順位があり、先順位に位置づけされる血族相続人が存在しないときに、はじめて後順位の血族相続人が相続人となります。
血族相続人の順位は以下のとおりとなります。

第1順位:第1順位の相続人は、被相続人の子若しくは、その代襲相続人である直系卑属です。子は実子であっても養子であっても相続人となります。
第2順位:第2順位の相続人は、被相続人の直系尊属(父母・祖父母など自分より前の世代で、直通する系統の親族のことをいいます。)です。
第3順位:第3順位の相続人は、被相続人の兄弟姉妹です。

配偶者相続人

配偶者は常に相続人となります。配偶者とは、法律上の配偶者であることが必要であり、内縁配偶者は含まれません。

具体的な相続分について

相続人資格の重複

養子としての相続権と孫としての代襲相続権の重複

自己の孫を養子にしている者が死亡し、相続が開始した場合、その孫
は養子としての相続権と孫としての代襲相続権の双方の地位において重複して相続し、双方の相続分を取得することができるとされています。
被相続人が孫を養子としたのは、もともと相続効果を主たる目的としたものと考えられるため、養子としての相続権が否定される理由はないし、そのために養子の代襲相続権を否定する理由もないからです。

実子としての相続資格と養子としての相続資格の重複

被相続人が被嫡出子を養子にした後に死亡した場合、非嫡出子の相続資格は喪失するとされています。
非嫡出子と養子縁組をする目的は、非嫡出子に嫡出子の地位を与えることにあると考えられることから、嫡出子の相続資格に限定するのが養子縁組の趣旨に合致すると考えられているからです。

相続人不存在の場合

相続財産管理人

被相続人が死亡し、相続が開始したが、相続人の存否が明らかでない場合、被相続人に対して債権を有する人は債務の支払いを請求する相手方がいなくなってしまいます。また、被相続人が遺言書を残していたとしても、受遺者は相続財産を取得できなくなってしまいます。
このような場合に、家庭裁判所は、利害関係人や検察官の申立てにより、相続財産管理人を選任します。相続財産管理人とは、遺産を管理して遺産を清算する職務を行う人のことをいいます。
相続財産管理人は、被相続人の債権者等に対して被相続人の債務を支払ったり、遺言書に基づき相続財産を受遺者に移転させる等の清算を行い、清算後に残った財産については、国庫に帰属させる等の職務を行います。

特別縁故者

特別縁故者とは、被相続人に相続人がいない場合に、被相続人と特別の縁故があった人で、相続財産の全部又は一部を受け取れる人のことを言います。
特別縁故者になり得る人は以下の人になります。

  • 被相続人と生計を同じくしていた者
    被相続人と生計を同一にして密接な生活関係にあった者をいい、内縁の配偶者や事実上の養親子などが該当します。
  • 被相続人の療養看護に努めた者
    被相続人を献身的に世話して療養看護に尽くした者をいい、看護師や家政婦などのように報酬を得て療養看護に尽くした者でも、その報酬以上に献身的に尽くした場合にはその者も含まれます。 
  • その他被相続人と特別の縁故があった者
    上記1、2に準ずるような密接な関係が具体的かつ現実的に存在し、相続財産を分与することが相続人の意思に合致すると考えられる者をいいます。

法定相続人の人数が多い場合や、誰が法定相続人に当たるかが不明な 場合等、個別のケースにおける法定相続人や法定相続分に関する不安や悩みをお持ちの方は、山本・坪井綜合法律事務所長崎オフィスまでご気軽にご相談ください。

相続財産(遺産)の範囲

被相続人が死亡して相続が開始すると、相続人は、被相続人の財産に属した一切の権利義務を包括的に承継します。一切の権利義務とは、個別の動産・不動産、債権・債務、契約当事者の地位などもが含まれます。
もっとも、例外的に承継されない権利義務もあることから、遺産の範囲に含まれない権利について説明します。

一身専属権

一身専属権とは、権利の性質上、その個人の人格や身分等と密接に関りがあるため、その者のみが行使できる権利であり、第三者に譲渡することができない権利をいいます。一身専属権は、その個人の人格や身分と密接にかかわることから、相続の対象となりません。
一身専属権には、明文の規定のある代理権、使用貸借における借主の地位、雇用契約上の地位、組合員の地位だけでなく、扶養請求権、財産分与請求権、生活保護法に基づく保護受給権等も含まれます。

祭祀財産等

祖先の祭具は、祖先の祭祀の主宰者に帰属するとされているため、相続財産には含まれず、相続の対象にはなりません。
葬儀費用は、相続開始後に生じた債務であり、相続財産を構成するものではないので、相続の対象になりません。
香典は、葬儀費用等の遺族の経済的負担を軽減することを目的とする贈与であると考えられるため、相続財産には含まれず、相続の対象にはなりません。
遺体・遺骨については、慣習上、祭祀の主宰者に帰属するものと考えられることから、相続財産には含まれず、相続の対象となりません。

遺産分割の対象となる財産の範囲

被相続人が死亡して相続が開始すると、相続人は、被相続人の財産に属した一切の権利義務を包括的に承継します。
しかし、相続の対象となる相続財産がすべて遺産分割の対象となるわけでなく、相続財産の法的性質や遺産分割の性質により遺産分割の対象から除かれるものもあります。
そこで、個別の遺産について、遺産分割の対象になるのかどうかについて説明します。

不動産

土地や建物その他の定着物である不動産は遺産分割の対象となります。

債権

一般金銭債権

判例上、一般金銭債権は分割債権であり、相続開始とともに法律上当然に分割され、各相続人はその相続分に応ずる権利を承継するとされています。
そのため、金銭債権に関しては、当然に分割され、各相続人がその相続分に応ずる権利を承継することから、遺産分割の対象にならないと考えられます。
もっとも、相続人全員の同意がある場合には、金銭債権も遺産分割の対象として扱うことが可能となります。

預貯金債権

判例上、預貯金債権については、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるとされています。
そのため、共同相続された預貯金債権は、共同相続人の準共有(複数の人で所有権以外の財産権を有する場合をいいます。)となるため、預貯金債権の払戻しを受けるためには、共同相続人全員の同意が必要となり、共同相続人の1人が単独で預貯金の払戻しを受けることはできないとされています。
しかし、その結果、共同相続人において被相続人が負っていた債務の弁済をする必要がある、あるいは、被相続人から扶養を受けていた共同相続人の当面の生活費を支出する必要があるなどの事情により、被相続人が有していた預貯金を遺産分割前に払い戻す必要がある場合であっても、共同相続人全員の同意を得ることができない場合には払い戻すことができないという不都合が生ずることとなりました。
そこで、平成30年に民法が改正され、民法909条の2が新設され、共同相続人の各種の資金需要に迅速に対応することを可能とするため、各共同相続人が、遺産分割前に、裁判所の判断を得ることなく、一定の範囲で遺産に含まれる預貯金債権を行使することができることとされました。

損害賠償請求権

生命侵害に対する逸失利益の損害賠償請求権や慰謝料請求権については、一身専属権として相続の対象とならないとする考え方もありますが、判例上は、逸失利益の損害賠償請求権も慰謝料請求権も相続の対象となるとされています。
そして、損害賠償請求権は、通常の金銭債権であるから、相続開始とともに法律上当然に分割され、各相続人はその相続分に応ずる権利を承継するため、遺産分割の対象とはなりませんが、相続人全員の同意がある場合には、金銭債権も遺産分割の対象として扱うことが可能となります。

株式、国債、社債

株式、国債、社債については、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となります。
なお、遺産分割がなされるまでは、共同相続人間で準共有する状態となります。

現金

現金は、一般金銭債権と同様に遺産分割を経ずに当然に分割され、遺産分割の対象にはならないように思われます。しかし、判例上、現金は、不動産や他の動産と同様に有体物と考えることができることから遺産分割の対象となるとされています。
そのため、相続人は、遺産分割が終了するまでは、相続開始時に金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して、自己の相続分に相当する金銭の支払いを請求することもできないとされています。

生命保険金

保険金受取人として特定の相続人を指定している場合

判例では、死亡保険金請求権は、保険契約の効力の発生と同時に受取人の固有財産となっているとして、相続の対象にならないとしています。そのため、遺産分割の対象にもなりません。
もっとも、特定の相続人のみが多額の保険金を取得するような場合、実質的に不公平が生じるおそれがあるため、保険金受取人である相続人とその他の相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らして到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、民法903条の類推適用により、特別受益に準じて持ち戻しの対象となるとされています。

保険金受取人が単に相続人と指定されている場合

判例では、各共同相続人が受け取るべき金額については、保険会社の合理的意思解釈に基づき、保険契約者が死亡保険金の受取人を被保険者の相続人と指定した場合は、特段の事情がない限り、右指定には、相続人が保険金を受け取るべき権利の割合を相続分の割合によるものとする旨の指定も含まれ、各保険金受取人の有する権利の割合は相続分の割合になるとされています。

保険金受取人が被相続人と指定されている場合

被相続人が保険金受取人とされている場合、死亡保険金は相続財産とみなされ、死亡保険金の受取人は保険契約約款の内容で決まりますが、約款で受取人が指定されている場合はその受取人が取得します。
約款で受取人が指定されていない場合、保険法46条に従い、保険金は各法定相続人で均等に分割されます。法定相続人の割合ではないことに注意が必要です。

債務

金銭債務

金銭債務のような可分債務は、遺産分割を経ることなく、その相続分に応じて各共同相続人が承継されます。
そのため、原則として遺産分割の対象とならないが、共同相続人全員の同意があれば遺産分割の対象とすることも可能となります。  

連帯債務

相続開始と同時に債務額および負担割合が各相続人の相続分に応じて当然に分割承継され、その範囲で本来の連帯債務者と連帯責任を負います。
なお、法定相続分と異なる割合による負担をすることを相続人間において合意することは可能ですが、債権者の同意がなければ負担割合を主張することはできません。

保証債務

・通常の保証
通常の保証債務は、その額が明確になっていることから、通常の金銭債務と同様に、遺産分割を経ることなく、その相続分に応じて各共同相続人が承継するとされています。

・信用保証
判例では、継続的売買取引について将来負担すべき債務についてした責任の限度額ならびに期間の定めのない連帯保証契約における保証人たる地位は、特段の事由のない限り、当事者その人と終始するものであって、保証人の死亡後に生じた債務については、その相続人においてこれが保証債務を負担するものではないとされている。
当該判例の反対解釈からすると、極度額または期限の定めのある継続的信用保証契約の場合には、相続の対象となる可能性があります。

・身元保証
判例では、特段の事由のない限り、保証人の死亡によって相続が開始されても、その相続人は契約上の義務は履行しないとされています。
もっとも、相続開始前に具体化していた損害賠償債務については、通常の債務と異ならないことから、相続の対象となります。

契約上の地位

相互の信頼関係を基礎にする契約

相互の信頼関係を基礎にする契約については、契約の相手方が誰であるかが重要になってくることから、当事者の死亡により消滅する。

賃貸借契約における貸主・借主の地位

・借主
借主の地位も財産権の一種であるので、相続財産として相続の対象となり、遺産分割の対象になります。

・貸主
貸主の地位も相続財産として相続の対象となり、遺産分割の対象と なります。

使用貸借契約における貸主・借主の地位

・借主
使用貸借契約は、借主が誰であるかということを重視して無償とさ れているのであるから、使用貸借の借主が死亡した場合には、使用貸借はその効力を失うとされています。

・貸主
相続開始時を始期とし、遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していたものと推定し、相続の対象となるとされています。

遺産の管理費用等

管理費用

遺産の管理費用(固定資産税や修繕費等が含まれる。)は、相続開始後に生じた債務であり、原則として遺産分割の対象とはならない。
もっとも、相続人全員の同意があれば遺産分割調停の対象とすることは可能であるが、遺産分割の審判の対象とはできないことから、遺産分割調停で解決できない場合には、民事訴訟により解決を図ることになります。

相続開始後に生じた不動産の賃料

相続人が数人いる場合に相続開始から遺産分割までの間に不動産の賃料債権が発生した場合、判例では、当該不動産を共有する相続人がその持分=相続分に応じて分割単独債権として取得し、遺産分割の遡及効によってその効果が覆るものではないとされています。

特別受益

共同相続人の中に、被相続人から遺贈を受けたり、生前贈与を受けた相続人がいる場合、それを考慮せずに他の相続人と同じ相続分を取得すれば不公平が生じます。そこで、そのような不公平を解消するために、特別受益という制度があります。以下で、特別受益制度について説明します。

意義

共同相続人の中に、被相続人から特別な贈与等を受けた相続人がいる場合、共同相続人間の衡平を図るため、特別な贈与等を相続分の前渡しとみて、計算上の贈与を相続財産に加算して相続分を算定する制度をいいます。

特別受益の範囲

遺贈

遺贈とは、遺言によって遺言者の財産の全部又は一部を無償で相続人に 譲渡することをいいます。遺贈に関しては、その目的にかかわりなく、特別受益となります。

婚姻もしくは養子縁組のための贈与、生計の資本としての贈与

生前贈与が特別受益となる贈与であるか否は、当該生前贈与が相続財産の前渡しとみられる贈与であるか否かを基準にしながら相続人間の衡平を考慮して判断されます。
持参金・支度金については、婚姻又は養子縁組のための贈与として、一般的には特別受益となります。
結納金や挙式費用に関しては、特別受益にならないとされています。
親元から独立する際の不動産の贈与、事業資金の贈与等、広く生計の基礎として役立つような財産上の給付に関しては、特別受益となります。

生命保険金

生命保険金は、被相続人と保険会社との間の保険契約に基づき、受取人が支給を受けるものであるから、特別受益にあたらないとされています。
もっとも、特定の相続人のみが多額の保険金を取得するような場合、実質的に不公平が生じるおそれがあるため、保険金受取人である相続人とその他の相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らして到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、民法903条の類推適用により、特別受益に準じて持ち戻しの対象となるとされています。
上記の特段の事情の有無については、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきとされています。

特別受益者の範囲

共同相続人

特別受益者となり得るのは、特別受益を受けた共同相続人に限られるのが原則となります。

代襲相続人

被代襲者(代襲相続人の親のことをいいます。)の受けた贈与は、原則として特別受益となります。もっとも、当該受益が特別高等教育を受けた費用や外国留学の費用などのように一身専属的なものである場合には、特別受益にあたらないとされています。
代襲者自身が贈与を受けた場合、代襲者の死亡等により共同相続人となる前に受けたものは特別受益とならないが、相続人となった後に受けたものについては特別受益となるとされています。

間接的受益者(相続人の配偶者、子等)

被相続人から相続人の配偶者や子などに対して生前贈与がなされたとしても、相続人に対する贈与ではないので、特別受益にあたらないとされています。
もっとも、名義上は共同相続人の親族に対する遺贈又は贈与であっても、実質的に共同相続人に対する遺贈又は贈与であるといえるような場合には、例外的に特別受益となるとされています。

特別受益の評価

特別受益の評価の基準時

具体的相続分を算定する際に控除する特別受益額の評価時点については、相続開始時とされています。
 

贈与の目的物の滅失または価額の増減

受贈者の行為により、生前に贈与された財産が滅失または価格の増減が生じた場合、それが相続開始時において、贈与の当時のままの形で存在するものとして評価するとされています。
受贈者の行為によらずに贈与の目的物が滅失したり価額の増減が生じた場合については、滅失すれば特別受益はないものとし、価値の増減があるときは相続開始時の価格で評価するとされています。

持戻し免除の意思表示

意義

被相続人は、特別受益の持戻しにつき、遺留分に関する規定に反しない範囲内で、受益分の持戻しを免除する意思表示をすることができるとされています。

意思表示の方式

明示の意思表示、黙示の意思表示、生前行為、遺言のいずれの方式でもよいとされています。

寄与分

共同相続人の中に、被相続人の生計の維持や看病に努めた相続人がいる場合に、それを考慮せずに他の相続人と同じ相続分を取得するということになれば不公平が生じます。そこで、そのような不公平を解消するために、寄与分という制度があります。以下で、寄与分制度について説明します。

意義

寄与分とは、共同相続人の中に、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした者がある場合、他の相続人との間の実質的な衡平を図るため、その寄与をした相続人に対して相続分以上の財産を取得させる制度のことをいいます。

寄与分の主体

共同相続人

寄与分を主張することができるのは、共同相続人に限られています。

代襲相続人

代襲相続人も共同相続人であることから、寄与分の主張ができるとさ れています。
代襲相続人が寄与行為を行った場合、共同相続人間の実質的衡平を図るという寄与分制度の目的を重視し、代襲相続の原因の前後で区別する必要はなく、すべての寄与分を主張できるとされています。
被代襲相続人が寄与行為を行った場合、代襲相続人は被代襲者の地位を承継することから寄与分の主張をすることができるとされています。

相続人の補助履行者(配偶者・子等)

相続人の配偶者や子等は共同相続人ではないので、原則として寄与分の主張をすることができません。
もっとも、相続人の補助履行者の寄与行為が、相続人の寄与行為と同視できるような事情が存在する場合には、当該相続人の寄与行為と評価できる可能性があります。

包括受遺者

寄与者の主体が共同相続人に限定されていることから、包括受遺者は寄与分の主張をすることができないとされています。

寄与分の要件

寄与分が認められるためには、以下のような要件が必要であるとされています。
  

相続人自らの特別の寄与であること

親族間の扶助として通常行うことが期待される程度を超える特別の労務の提供や療養看護等を行ったことが必要となります。

相続開始までの行為であり、被相続人の遺産が維持又は増加したこと

条文上、被相続人の財産の維持又は増加となっており、相続開始前の行為であり、かつ、相続人の行為によって、その行為がなかったとすれば生じたはずの被相続人の積極財産の減少や消極財産の増加が阻止され、又はその行為がなかったとすれば生じなかったはずの被相続人の積極財産の増加や消極財産の減少があることが必要となります。

対価を受けていないこと

無償又はこれに近い状態で寄与がなされていることが必要となります。相応な対価を得てなされた寄与行為は、これに対する実質的な清算が完了しているものということができます。

寄与行為と被相続人の財産の維持又は増加との間に因果関係があること

寄与行為によって、被相続人の財産が減少することを食い止めたり、増加させたりというような財産上の効果が具体的に現れたことが必要となります。

寄与行為の類型及び算定方法

家事従事型

相続人が、被相続人の営む事業に無報酬あるいはそれに近い状態で従事し、労務を提供して、相続財産の維持または増加に寄与する類型のことをいいます。
この類型には、被相続人が個人事業主である場合などで、労務に見合った報酬を得ることなく長期間従事した場合等があります。
算定方法は以下のとおりとなります。

寄与分=寄与行為をした相続人の受けるべき相続開始時の年給額×(1-生活費控除割合)×寄与年数

金銭等出資型

相続人が、被相続人や事業に対して、財産上の給付あるいは財産的な利益を提供して財産を維持・増加させ、あるいは、債務の返済等により被相続人の財産の維持に寄与する類型のことをいいます。
この類型には、子が親に対し、被相続人の家屋の新築、新規事業の開始、借金返済などのために金銭を贈与する場合等があります。
算定方法は以下のとおりとなります。

寄与分=贈与の金額×貨幣価値変動率×裁量割合

扶養型

特定の相続人のみが被相続人を扶養し、被相続人の支出を減少させその財産の維持に寄与する類型のことをいいます。
本来は相続人全員で親を扶養すべきであるところ、相続人のうちの1人のみが全面的にその扶養を引き受けた場合等があります。
算定方法は以下のとおりとなります。

寄与分=扶養のために負担した額×(1-寄与相続人の法定相続分割合)

療養看護型

相続人が、無報酬あるいはそれに近い状態で被相続人の療養看護を行い、被相続人が医療費や看護費用の支出を免れたことによって相続財産の維持に寄与する類型のことをいいます。
この類型には、相続人による被相続人の介助を無償で行っていた場合等があります。
算定方法は以下のとおりとなります。

寄与分=報酬相当額×日数×裁量割合

財産管理型

相続人が、被相続人の財産管理をし、被相続人が管理費用の支出を免れるなどにより被相続人の財産の維持に寄与する類型のことをいいます。
被相続人の所有する土地の売却にあたり、同土地上の家屋の賃借人と立退交渉等に尽力した場合等があります。
算定方法は以下のとおりとなります。

寄与分=相当と思われる財産管理費用×裁量割合

まとめ

寄与分が認められるかどうかは、個別の事案ごとに大きく異なります。相続が発生した際、寄与分が認められる可能性があるかどうかについて疑問をお持ちの方は、山本・坪井綜合法律事務所長崎オフィスまでお気軽にご相談ください。

遺留分

被相続人は本来であれば自己の財産を自由に処分することができるはずです。しかし、一方で、相続制度は遺族の生活保障及び遺産形成に貢献した遺族の潜在的持分の清算などの機能を有しています。
そこで、民法では、遺留分制度により、被相続人の財産処分の自由と相続人の保護という、相対立する要請の調和を図ることとしています。以下で、遺留分制度について説明します。

意義及び制度趣旨

遺留分制度とは、被相続人が有していた相続財産について、その一定割合の承継を一定の法定相続人に保障する制度です。
遺留分とは、一定の相続人に対して、遺言によっても奪うことのできない遺産の一定割合の留保分のことをいいます。

遺留分権利者と遺留分の割合

遺留分権利者

遺留分を有する者は、兄弟姉妹以外の法定相続人(配偶者、子、直系尊属)です。

遺留分の割合

直系尊属のみの場合は、法定相続分の3分の1
それ以外の場合は、法定相続分の2分の1

遺留分の放棄

相続開始前に遺留分の放棄をする場合、家庭裁判所の許可を得る必要があります。相続開始前の遺留分放棄を無制限に認めると、被相続人が遺留分の放棄を強要するおそれがあることから、家庭裁判所の許可を得る必要があるとされています。
一方、相続開始後の遺留分の放棄は、被相続人が遺留分の放棄を強要するおそれがないことから、家庭裁判所の許可を得ずに自由にすることができます。
遺留分を放棄すると、遺留分を侵害する遺贈又は贈与がなされたとしても、遺留分侵害額請求権を行使することができなくなります。

遺留分侵害額請求権

遺留分権利者が遺留分の侵害を受けている場合に、遺留分に相当する金銭の支払を確保するために、金銭を請求する権利が認められています。これを遺留分侵害額請求権といいます。以下で遺留分侵害額請求権について説明します。

意義

遺留分侵害額請求権とは、遺留分の侵害を受けている遺留分権利者が、受遺者または受贈者に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求する権利のことをいいます。

遺留分侵害額請求権の対象となる遺贈・贈与とその順序

受遺者または受贈者が、遺留分侵害額をどのように負担するのかについては、民法でその対象と順序が定められています。
具体的な順序は以下のとおりとなります。
   

  1. 受遺者と受贈者とがあるときは、受遺者が先に負担することになります。
  2. 受遺者が複数あるとき、又は受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは、受遺者または受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担することになります。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従うことになります。
  3. 受贈者が複数あるとき(2に規定する場合を除く。)は、後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担することになります。

遺留分侵害額請求権の消滅

遺留分権利者は、遺留権利者が、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅します。
また、相続開始の時から10年を経過したときも、遺留分侵害額請求権は除斥期間により消滅します。
遺留分侵害額請求権が時の経過により消滅するとされたのは、法律関係の早期安定を図るためです。

遺留分侵害額の算定方法

遺留分侵害額は、以下の計算式によって算定されます。
遺留分侵害額=(遺留分額)-(遺留分権利者が受けた遺贈又は特別受益の価額)-(具体的相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額)+(遺留分権利者が承継する債務の額)

まとめ

遺留分侵害額請求権が行使できるかどうかの判断はなかなか難しい場合もあります。また、遺留分侵害額請求権の算定方法や行使方法も複雑なものとなっています。遺留分侵害額請求権に関するお悩みをお持ちの方は、山本・坪井綜合法律事務所長崎オフィスまでご気軽にご相談ください

相続放棄

相続が開始すると、相続人は自らの意思に関係なく被相続人の財産を包括的に承継します。しかし、相続人が被相続人の財産の承継を希望しないこともあることから、相続人に相続するかどうかを選択する権利が認められています。その権利のことを相続放棄といいます。以下、相続放棄について説明します。

意義

相続放棄とは、相続人が被相続人の権利義務の承継を拒否することをいいます。

手続

相続放棄をするには、自己のために相続が開始したことを知ったときから3か月以内に、家庭裁判所にその旨の申述をしなければなりません。

効果

相続人が相続放棄をした場合、当該相続に関しては、はじめから相続人にならなかったものとみなされるため、被相続人の債務を負担する必要はなくなります

相続放棄後の遺産の管理

相続放棄の場合、放棄によって相続人となった者が遺産の管理を始めることができるようになるまでの間は、放棄した者も引き続き、自分の財産と同一の注意義務をもって管理をしなければなりません。
もっとも、相続人が相続を放棄したことで相続人がいなくなった場合、相続放棄をした相続人の財産管理義務を免れることができなくなってしまいます。そこで、このような場合、相続を放棄した者は、続財産管理人の選任を家庭裁判所に請求することができます。

相続財産管理人