相続登記の義務化

 

 空き家や空き地の不動産が長期間放置されることにより、建物が崩壊したり、雑草が生い茂ったり、ごみが不法投棄されるなど、周辺の環境に悪影響を及ぼしている恐れがあり、社会問題となっています。
 このような不動産の所有者を調べても、所有者が判明しないものや所有者が判明しても連絡がつかないことが多くあります。このような不動産のことを、「所有者不明土地」と呼ばれています。
 このような原因として、相続不動産の相続登記がなされていないことが挙げられます。
 相続不動産の相続登記をしないまま放置しておくと、不動産の登記上の所有者は亡くなった人のままの状態となり、その状態が長期間放置されることで相続人の数が膨大になったり、相続人が音信不通や行方不明になったりして、所有者不明土地となります。
 そこで、所有者不明土地の発生を予防するために、法律が改正され、これまで任意だった相続登記の申請が、義務化されることとなりました。
 相続登記の義務化について、お話しします。

1 相続登記とは
 相続登記とは、亡くなった人(被相続人)が所有していた土地や建物の不動産の名義を、相続人の名義に変更する手続きをいいます。
 相続登記の手続きは、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人の戸籍謄本、遺産分割協議書、印鑑証明書などの必要な書類を整えて、不動産の所在地を管轄する法務局に申請します。相続する不動産が複数の地域にある場合は、それぞれの不動産の所在地を管轄する法務局ごとに、相続登記の申請をしなくてはなりません。

2 相続登記の義務化とは
⑴ 令和6年(2024年)4月1日から義務化
 現在、相続登記をするかどうかは、相続人の任意とされていましたが、令和6年(2024年)4月1日から義務化されます。

⑵ 正当な理由なく相続登記申請をしなければ、罰則相続人は、土地、建物の不動産を相続したことを知ったときから3年以内に、相続登記を申請する必要があります。
 正当な理由がないのに相続登記をしない場合は、10万円以下の過料が科せられる可能性がありますので、注意が必要です。
「不動産を相続したことを知ったとき」とは 、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その所有権を取得したことを知った日のことをいいます。
つまり、自身が相続人であることを認識していても、相続財産に不動産があることを知らなければ、登記義務は生じないこととなります。
  
・ 遺言書があった場合
 遺言者が亡くなったことを知り、かつ、遺言によって自身が不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記を申請しなければなりません。
・ 遺産分割協議が成立した場合
 遺産分割協議が成立した場合には、自身が相続人であることを知り、かつ、相続財産の中に不動産があることを知った日から3年以内に、分割協 議の内容を踏まえた相続登記を申請しなければなりません。
・ 遺産分割協議が成立しなかった場合
 遺産分割協議が成立しなかった場合でも、自身が相続人であることを知り、かつ、相続財産の中に不動産があることを知った日から3年以内に相続人申告登記の申し出を行わないといけません。

⑶ 相続登記ができない「正当な理由」とは
 相続登記ができない「正当な理由」とは、
① 相続放棄を放置したため、相続人が極めて多数に上り、戸籍謄本等の必要な資料の収集や他の相続人の把握に多くの時間を要する場合
② 遺言の有効性や遺産の範囲等が争われているため、誰が不動産を相続するのか明らかにならない場合
③ 相続登記申請義務を負う者自身に重病等の事情がある場合
④ 相続登記申請義務を負う者が経済的に困窮しているために、登記の申 請を行うために要する費用を負担する能力がない場合
 などのケースが考えられます。

⑷ 過去の相続分も義務化の対象
  相続登記の義務化の施行日(令和6年4月1日)以前の過去に相続した相続登記がされていない不動産についても、相続登記義務化の対象となり、相続登記の申請を行う必要があります。
  この場合には、施行日又は不動産を相続したことを知ったときのいずれか遅い日から、3年以内に申請する義務を負います。また、正当な理由がないにもかかわらず、期限内に相続登記の申請をしなかった場合には、10万円以下の過料が科せられることがあります。

3 遺産分割協議が調わなかった場合の対処方法
  相続で、相続人が音信不通であったり、3年以内に相続人間で遺産分割協議が調なかった場合は、まず、法定相続分のとおりに相続登記し、その後、遺産分割協議が調ったら、改めて協議内容のとおりに登記申請しなくてはならず、費用や手間がかかります。
 この問題に対応するために新設されたのが、「相続人申告登記」という制度です。
 「相続人申告登記」とは、登記簿上の所有者について相続が開始したこと(所有者が亡くなったこと)と自らがその相続人であることを登記官(法務局)に申し出る制度です。(令和6年4月1日施行)
手続きは簡素化され、相続人自身の戸籍謄本を、申請期間3年以内に法務局に提出申請することで、申請義務を果たしたこととみなされます。
 申し出がなされると、申し出をした相続人の氏名、住所等が登記されますが、持ち分までは登記されません。
 この申し出は、相続人が複数いる場合でも、単独で申し出ることができます。
 また、他の相続人の分も含めた代理申請もできます。
 その後、遺産分割協議が調ったら、遺産分割成立の3年以内に相続登記の申請をすれば足ります。

4 相続人に対する遺贈があった場合  
 不動産の所有者が亡くなり、遺言により、相続人に対する不動産の遺贈があった場合、これまでは法定相続人全員の合意がないと名義変更手続きができませんでした。   
 法改正により、令和5年4月1日から、遺贈を受けた方が単独で、名義変更の登記申請ができることとなっています。
 例えば、「不動産を相続人の長男に遺贈する」などの遺贈があった場合は、法定相続人の長男が単独で、不動産登記の名義変更ができるようになっています。
 ただし、法定相続人以外への遺贈の場合は、従来通り、相続人全員の合意が必要となっています。

5 相続登記をしないデメリット
 相続登記を行うことで、権利関係が明確となり、直ちに不動産の売却や担保としての活用が円滑にできるようになりますが、相続登記をしなければ、罰則だけでなく、次のようなデメリットが想定されます。
⑴ 権利関係が複雑になり、相続登記が困難に相続登記を行わず放置していると、新たな相続が発生し、さらに相続人の数が増え、権利関係がより複雑になるおそれがあり、お子さんやお孫さんの世代に負担を先送りすることとなります。
 例えば、所有者(登記名義人)の父が亡くなり、その相続人が子3人だった場合、相続登記をしないまま放置していると、その子も亡くなり、その子の子(所有者の孫)が相続人となります。
 そのまま放置し続け、その子の子も死亡していくと、ネズミ算式に相続人が増えていき、相続登記を行うため相続人全員の合意を取ろうとしても、事実上困難となります。

⑵ 権利者が確定していないため、不動産の売却や担保提供ができない
 不動産を売買したり、担保して提供したりするときには、実際の所有者と登記簿上の所有者は必ず一致していないといけないので、登記簿上の所有者が亡くな った方のままでは、手続きを進めることはできません。
 例えば、相続した土地にマイホームを建築しようとして、その土地を担保に金融機関から住宅ローンの融資を得るために申し込みをすると、登記簿上の所有者が異なっていることから、住宅ローンの融資を拒否されます。
また、今売るつもりがないからと相続登記をしないで放置しておくと、いざ売却しようとしたときに、他の相続人が行方不明だったり、手続きに協力が得られなかったりして、売却ができないという事態になりかねません。

⑶ 不動産の差押えや共有持ち分を売却されるリスク
 相続人が借金をしている人がいる場合には、相続人の債権者が相続人に代わって法定相続による相続登記を申請して、借金をしている相続人の持ち分を差し押 さえることができますので、注意が必要です。
 また、相続人自身も持ち分を売買したり、担保提供したりすることが可能なため、相続登記をしないで放置していると、相続人ではない第三者が権利関係に入ってくることもあり得ます。
   
⑷ 公共事業や災害が発生した際に影響 
 国や地方自治体が公共事業や再開発を進める場合や災害が発生した際の復旧作業を進める際、その所有者全員の合意を得る必要があり、相続登記が行われていないと所有者の特定が困難なため、なかなか公共事業や復旧作業が進まなくなってしまい、支障が出る可能性があります。

相続登記によるメリット・デメリットは上記が主なものになります。
そのため、相続により不動産を取得された方は、相続登記を忘れずに行ってください。
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 弁護士法人山本・坪井綜合法律事務所 長崎オフィス
   代表弁護士  坪井 智之

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